- 非常用照明が必要な用途や居室の基準について知りたい
- 非常用照明の構造に基準はあるのか?
- 非常用照明の設置が不要となる緩和基準を知りたい
- 令和5年4月改正となった非常用照明の設置による歩行距離の緩和や、住宅の照明器具設置による採光緩和の概要が知りたい
このような疑問や最新情報を知りたいかたは、たくさんいらっしゃるのではないでしょうか。
たくみ です。
設計事務所、指定確認検査機関に長年勤めた経験をもとに難解な建築基準法について解説していきます。
特殊建築物や大規模な建築物の居室や避難経路は、避難上の安全性から非常用照明の設置が建築基準法上必要となっています。ただし、一定の条件に適合すれば非常用照明を省略する事ができます。この記事では、これらの具体的な内容や、平成30年4月1日の緩和告示、及び 令和5年4月1日の法改正で照明器具設置による緩和の概要についても解説します。
非常用照明が必要な用途や室の基準について
非常用照明って普通の照明とどう違うの?どこに設置しないといけないの?
ホテルや物販店舗など普段不慣れな場所で火災が発生した場合、避難する方向を迷いやすい上に、避難の際に採光窓もなく照明が切れてしまえばパニックになるのは容易に想像できます。このような非常時に通常とは別の電源からの照明をつけ、居室や避難経路の安全性を確保する目的で設置する義務がある照明のことを非常用照明といいます。
建築基準法施行令126条の4により非常用照明の設置が必要な建築物の用途や室等については、以下のようになります。
- 劇場・ホテル・百貨店などの特殊建築物の居室及び避難経路
- 3階以上で延べ面積500㎡を超える建築物の居室及び避難経路
- 採光無窓の居室(令116条の2第1項1号規定:居室の床面積の1/20以上の採光が無いもの)
- 延べ面積1000㎡を超える建築物の居室
非常用照明は非常時に点灯する別電源の照明の事で、特殊建築物や大規模建築物などの居室や避難経路に設置が必要ですね。
非常用照明の構造基準について
非常用照明の構造基準については、令126条の5及び昭和45年建設省告示1830号に規定されています。具体的には、床面で1ルクス以上の照度を確保し、予備電源があるもの等の規定があります。非常用照明の構造詳細図(照明器具の承認図やカタログ等)に「告示1830号適合品」又は「JIL5501に基づくJIL適合品」(日本照明工業会の適合マーク)である事が必要となります。
非常用照明の設置が緩和される部分について
非常用照明の設置が緩和されている部分については、施行令126条の4第1項本文やただし書きに規定されています。具体的には以下の通りです。
- 居室から地上に通ずる、採光上有効に直接外気に開放された廊下や階段の部分
- 一戸建ての住宅又は長屋若しくは共同住宅の住戸
- 病院の病室、下宿の宿泊室又は寄宿舎の寝室その他これらに類する居室
- 学校等(幼保連携認定こども園を除く。令126条の2第1項ただし書き第ニ号による)
- 避難階又は避難階の直上階若しくは直下階の居室で避難上支障が無いもの(平成12年告示1411号)
上記の内容は「建築物の防火避難規定の解説2016 第2版」に具体的に書かれているため、この書籍を購入されていない方は、ぜひご購入をご検討ください。なお、上記の各注意点の概要は以下によります。
- 採光上有効とは、当該階において採光補正係数が0又は負数となる部分を含まない事をいう。
- 共同住宅であっても、居室から地上に通ずる採光上有効に直接外気に開放(一般的には隣地境界線から50cm以上の空地を確保)されていない廊下や階段には非常用照明の設置が必要。
- 寄宿舎その他これらに類する居室には、非常用照明は設置不要。老人ホームなども含む。ただし、各都道府県の建築基準条例(兵庫県)で老人ホーム等の居室に非常用照明の設置を義務づけている場合があるので注意。
- 学校等には、幼稚園や小学校、中学校、高等学校、各種学校、体育館、ボウリング場、水泳場、スポーツ練習場などがあるが、夜間授業を行う学校や観覧場を有する体育館など利用状況を判断して非常用照明の設置が必要となる場合がある。
- 平成12年告示1411号について、平成30年4月1日に改正されている。
平成12年告示1411号の緩和規定について
平成12年告示1411号の一号又は二号のいずれかに適合する居室には非常用照明を省略する事ができます。この告示は平成30年4月1日に改正されており、告示の具体的な内容は以下の通りです。
容易に避難できる建築物の居室等の場合(告示1411号第一号:平成30年3月28日以前通り)
採光上有効な窓(床面積の1/20以上の採光)を有する居室で、以下のいずれかに適合するもの(避難経路は必要)
- 避難階にある居室で、屋外までの歩行距離が30m以下のもので、避難上支障が無いもの。
- 避難階の直上階又は直下階にある居室で、避難階の屋外の出口又は屋外避難階段に通ずる出入口までの歩行距離が20m以下のもので、避難上支障が無いもの。
避難上支障のない小規模な居室の場合(告示1411号第二号:平成30年3月29日追加)
床面積が30㎡以下の居室で、以下のいずれかに適合するもの
- 床面積が30㎡以下の居室から直接地上への出口を有するもの。
- 床面積が30㎡以下の居室で、地上まで通ずる部分が非常用照明を設置したもの、又は地上まで通ずる建築物の部分が採光上有効に直接外気に開放されたもの
共同住宅内の住室や、小規模な居室、出口までの距離が短い居室は特殊建築物であっても、部屋の間取りを把握していて避難に迷う危険性が少ないため非常用照明設置が緩和できるんですね。
令和5年4月1日改正 照明設置による緩和規定について
令和5年4月1日から照明設置により規制が緩和される規定が三つあります。
- 法28条1項(令19条)の規定による住宅の居室の必要採光面積の緩和
- 令120条1項の規定による採光無窓居室からの歩行距離を緩和
- 法35条の3(令111条)の規定による採光無窓居室の不燃区画壁の緩和
1.住宅の居室の必要採光面積を緩和できる
法28条により住宅の居室に必要な採光有効面積はその居室の床面積の1/7以上が必要となっていましたが、今回の改正により条件に合えば、1/7を1/10まで緩和できる事となりました。
緩和の条件としては、以下によります。
- 住宅の居室の床面において50ルクス以上の照度を確保できる仕様の照明器具を設置する。
- 確認申請時に、平面図に照明設備の設置位置や照明器具の仕様を明示する。
- 完了検査時に、平面図と同じ位置にシーリングローゼット等を設置しておく。
非常用照明ではなく、普通の照明器具で採光面積緩和ができるようになったのは画期的ですね!でも50ルクス確保できなくなった時点で建築基準法違反になる可能性があることに注意しましょう。
2.非常用照明設置等で採光無窓居室からの歩行距離を緩和できる
令120条1項により採光無窓居室からの歩行距離は上限30m(内装準不燃化で40m)となっていますが、条件を満たせば上限50m(内装不燃化で60m)と引き上げることができます。重複距離も併せて合理化できます。
緩和できる条件は以下によります。
- 病院や診療所(病床あり)などの自力避難が困難な施設の居室や地下の居室では無いこと
- 自動火災報知設備が当該居室と避難経路にあること
- 当該居室の床面積が30㎡以内、又は 当該居室及び避難経路に非常用照明を設置すること
- 当該通路を火災の発生の恐れの少ない室とする(通路以外の用途を設けない)
- 当該通路及びその隣接室にスプリンクラー設備を設置するか、又は当該通路を不燃壁・不燃戸(遮煙)で区画する
- 直通階段を準耐火構造の壁と防火設備(遮煙)で区画する
3.法35条の3無窓居室の不燃区画壁の緩和規定が拡充した
法35条の3(令111条)の採光無窓居室(居室の1/20以上の採光の無い居室)は当該居室を区画する壁を主要構造部と扱い耐火構造の壁または不燃区画の壁で天井裏まで(上階床下まで)達する必要がありますが、令和2年告示249号による自動火災警報設備設置かつ30m2または歩行距離が30m等の採光無窓居室は適用除外となっているものに今回の法改正でさらに適用除外できる規定を追加したものになします。
緩和できる条件は以下によります。
- 病院や診療所(病床あり)などの自力避難が困難な施設の居室や地下の居室では無いこと
- 自動火災報知設備が当該居室と避難経路にあること
- 当該居室及び避難経路に非常用照明を設置すること
- 当該通路を火災の発生の恐れの少ない室とする(通路以外の用途を設けない)
- 当該通路及びその隣接室にスプリンクラー設備を設置するか、又は当該通路を不燃壁・不燃戸(遮煙)で区画する
- 直通階段を準耐火構造の壁と防火設備(遮煙)で区画する
- 階段から出口までの通路全体を火災の発生の恐れの少ない室とするか、又は スプリンクラー設備を設置する
- 当該通路を準耐火構造の壁と防火設備(遮煙)で区画する