- 避難上有効なバルコニーとは何か?建築基準法で定義があるの?
- 避難上有効なバルコニーの具体的な構造は?
- 特定行政庁ごとに「避難上有効なバルコニー」の取扱い基準があるのか?
- 2以上の直通階段が必要な場合などで、避難上有効なバルコニーを設けると緩和があるの?
避難上有効なバルコニーの事を詳しく見ていきましょう。
たくみ です。
設計事務所、指定確認検査機関に長年勤めた経験をもとに難解な建築基準法について解説していきます。
避難上有効なバルコニーとは何か?建築基準法で定義があるの?
避難上有効なバルコニーとは、火災時に、階段の代わる一方向の避難経路として、ハシゴなどで高層階から地上(避難階)まで安全に避難できるバルコニー部分のことを指しています。しかし、避難上有効なバルコニーは、建築基準法施行令121条1項3号、6号及び同条3項に記載はされていますが、その構造については法令上「避難上有効なバルコニー」の判断基準が明確化されていません。
一応、「建築物の防火避難規定の解説 2016(第2版)」にて、その構造基準の記述があり、全国の共通取扱いとして広く運用されています。避難上有効なバルコニーの具体的な構造基準を見ていきましょう。
避難上有効なバルコニーの具体的な構造は?
日本建築行政会議で示された、全国の共通取扱いとしては、以下の通りです。
- バルコニーの位置は、直通階段の位置とおおむね対称の位置とし、かつその階の各部分と容易に連絡する事。
- バルコニーは、その1以上の側面が道路または幅員75cm以上の敷地内の通路に面し、かつ、タラップその他の避難上有効な手段により道路などに安全に避難できる設備を有する事。
- バルコニーの面積は2㎡以上(当該バルコニーから安全に避難する設備の部分を除きます。)とし、奥行の寸法は75cm以上とする事。
- バルコニーへ通ずる出入口の大きさは幅75㎝以上、高さ180㎝以上及び下端の床からの高さ15㎝以下
- バルコニー(共同住宅の住戸などに付随するものを除きます。)の各部分から2m以内にある当該建築物の外壁は耐火構造(準耐火建築物にあっては準耐火構造)とし、その部分に開口部がある場合は、特定防火設備または両面20分の防火設備を設ける事。
- バルコニーは十分に外気に開放されている事。(隣地境界線から50㎝以上等)
- バルコニーの床は耐火構造その他これと同等の準耐火性能を有し、かつ、構造耐力上安全なものとする事。
上記のように、色々な基準がありますが、いくつか疑問が出てくる場合があります。例えば、おおむね対称の位置とはどの程度の位置なのか?や、バルコニーの面積は内法で測る有効面積なのか?それは避難ハッチ部分やエアコンの室外機は除かなければならないのか?とか、タラップその他の有効な手段とは格納型避難ハシゴ以外に緩降機などでもよいのか?またその他、マンション住戸間のバルコニー間の隔壁は何個でも破っていいのか?などたくさんの疑問が湧いて出てきます。
特定行政庁ごとに「避難上有効なバルコニー」の取扱い基準があるのか?
全国的な共通運用である「建築物の防火避難規定の解説 2016(第2版)」を採用する場合、色々な疑問について役所や指定確認検査機関及び消防局などと事前の協議が必要となりますが、特定行政庁ごとに定めた「避難上有効なバルコニー」の取扱い基準があれば、できるだけそれに従いましょう。従わない場合、違反とまではいかないかもしれませんが、なんらかのペナルティを課される場合もありますので、注意が必要です。(神戸市は除く)
具体的な特定行政庁の取扱いについて、
① 京都市建築法令実務ハンドブックより
解釈編4-8 避難上有効なバルコニー
避難上有効なバルコニ-(避難ハッチ等を設ける部分をいう。以下「避難バルコ
ニー」という。)は,次の条件を満足するものでなければならない。
1 避難専用のものは,面積(有効内法面積)を 2 ㎡以上(当該避難バルコニーか
ら安全に避難する設備の部分を除く。),奥行きは 75cm 以上(有効),幅は 1.8m
以上(有効幅員)としなければならない。ただし,やむを得ず,避難専用のもの
とすることができない場合には,面積(有効内法面積)を 3 ㎡以上(当該避難バ
ルコニーから安全に避難する設備の部分を除く。),奥行きを 1.2m以上(有効)
とすること。
2 省略
3 外気に有効に開放(隣地境界線からの距離が有効 1m(商業地域及び近隣商業
地域は 50cm)以上,同一敷地内の他の建築物又は当該建築物の部分からの距離が
有効 2m以上であること。)していること。
4 屋内から避難バルコニーに通じる開口部には,法第 2 条第 9 号の 2 ロに規定す
る防火設備が設けられていること。
5 省略
6 避難ハッチを設置する箇所には,物干しアーム及び物干し竿等の避難上支障と
なるものを設置しないこと。また,避難ハッチの着地点と次の避難ハッチの間に
隔壁板が設けられていないこと。
7 避難バルコニ-に隔壁を設けて各住戸等の専用バルコニ-とする場合で,各住
戸の専用バルコニ-を避難バルコニ-までの到達経路とする場合には,隔壁は容
易に破壊できるものとし,破壊できる部分は幅 60cm 以上,高さ 1.2m以上とする
こと。
8 省略
1 避難上有効なバルコニーの設置位置は,2方向避難,歩行距離を考慮し,直通階段
の概ね反対側の位置とし,かつ,その階の各部分と容易に連絡できること。
2 屋内から,避難上有効なバルコニーに通じる開口部に設けられた防火設備の幅は,
75cm以上,高さは,180cm以上及びバルコニー床面から建具の下端までの高
さは,15cm以下とする。
3 各住戸等の専用バルコニーを避難上有効なバルコニーまでの避難経路とする場合,
各住戸から避難上有効なバルコニーまでの到達経路上に設ける隔壁は,概ね2箇所と
する。
4 避難経路となる,各住戸の専用バルコニーの床は耐火構造又は準耐火構造(耐火建
築物は除く。)とすること。
神戸市では、神戸市確認審査基準 解説(ホームページでダウンロード可能)において、避難上有効なバルコニーの面積は、避難ハッチ部分は除かなければならない事や、タラップその他の有効な手段としては、固定ばしご又は、ハッチ用つり下げハシゴとしなければならず、住戸間のバルコニー間の隔壁は2か所まで破壊して通過してよいとあります。令和3年9月1日までは固定ばしこしか認められず、外観を損ねるようなマンションが今でも点在しています。
これらの取扱い以外にも、大阪市建築基準法取扱い要領や名古屋市建築基準法関係例規集など比較的都市部に取扱いを定めている傾向にありますので、各地域の取扱いをHPで参照してください。
2以上の直通階段が必要な場合、避難上有効なバルコニーを設けると緩和があるの?
避難上有効なバルコニーを設置することで2以上の直通階段を1つの屋外避難階段だけに緩和する方法があります。
この法令の定義として、施行令121条(二以上の直通階段を設ける場合)を見てみましょう。
建築基準法施行令121条第1項
一~五 省略
六 前各号に掲げる階以外の階で次のイ又はロに該当するもの
イ 6階以上の階でその階に居室を有するもの(第一号から第四号までに掲げる用途に供する階以外の階で、その階の居室の床面積の合計が100㎡を超えず、かつ、その階に避難上有効なバルコニー、屋外通路その他これらに類するもの及びその階から避難階又は地上に通ずる直通階段で第123条第2項又は第3項の規定に適合するものが設けられているものを除く。)
ロ 5階以下の階でその階における居室の床面積の合計が避難階の直上階にあつては200㎡を、その他の階にあつては100㎡を超えるもの
上記の六号イにおいて、6階以上の場合で共同住宅やホテル、事務所などの用途で避難上有効なバルコニーと屋外避難階段のセットで階段を1つにする事ができます。ただし、六号ロで5階以下について書かれていますが、このセット緩和がありません。
避難上有効なバルコニーを設けると他にも緩和があるの?
避難上有効なバルコニーを設けると、重複距離の緩和があります。次を見てみましょう。
建築基準法施行令121条
2 省略
3 第1項の規定により避難階又は地上に通ずる2以上の直通階段を設ける場合において、居室の各部分から各直通階段に至る通常の歩行経路のすべてに共通の重複区間があるときにおける当該重複区間の長さは、前条に規定する歩行距離の数値の1/2を超えてはならない。ただし、居室の各部分から、当該重複区間を経由しないで、避難上有効なバルコニー、屋外通路その他これらに類するものに避難することができる場合は、この限りではない。
この施行令以外に、1時間準耐火建築物の木造3階共同住宅(いわゆる木三共)緩和条件に、避難上有効なバルコニーの設置が出てきますが、少し取扱いが異なる部分もありますので、「木造3階建共同住宅(木3共)とは?H27告示255号を具体的に解説」の記事もよかったら参照して下さい。
まとめ
- 避難上有効なバルコニーとは、ハシゴなどで地上まで安全に避難できるバルコニーの事。
- 避難上有効なバルコニーの構造は、法令上の判断基準が明確化されていない。
- 「建築物の防火避難規定の解説 2016(第2版)」にて、避難上有効なバルコニーの具体的な構造基準の記述があり、全国の共通取扱いとして広く運用されている。
- 特定行政庁ごとに定めた取扱い基準が出ている場合があり、避難上有効なバルコニーの構造基準にバラツキがあるので注意が必要。
- 2以上が直通階段が必要なケースであっても、6階以上で共同住宅などの用途に避難上有効なバルコニーと屋外避難階段のセットで階段を1つにする事ができる。
- 共同住宅の住戸で重複距離が限度を超えてしまった場合などで、避難上有効なバルコニーを設置すれば重複距離が緩和可能な場合がある。
このように、避難上有効なバルコニーは様々な場面で重要なものとなりますので、熟知した上で計画する事が重要だとわかりました。参考として「建築物の防火避難規定の解説 2016(第2版)」という書籍の購入をお薦めします。
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