- 非常用進入口とはどのようなもので、なぜ必要なのか?
- 非常用進入口はどのような建築物に設けなければならないのか?
- 非常用進入口の設置についての除外規定について知りたい。代替進入口との違いは何?
- 非常用進入口と代替進入口の構造基準について知りたい。
このようなお悩みをお持ちの方がいらっしゃるのではないでしょうか。
たくみ です。
設計事務所、指定確認検査機関に長年勤めた経験をもとに難解な建築基準法について解説していきます。
※火災などがおきたとき、建築物内にとり残された人を救助したり、消火活動を進めるためには、消防隊が建築物内に進入しなければなりません。建築物の高層化・大規模化が進む現代では、重要な問題になっていおり、万一の時の備えとして建築基準法で非常用進入口の規定を定めています。詳しく見ていきましょう。
非常用進入口の目的、設置義務のある建築物
非常用進入口の目的
建築物内に消防隊が進入することは、救助活動や消防活動を有効に進めるために重要です。建築物の1階は出入口がありますが、2階以上は窓がなければ、消防隊は1階から階段を利用するしか進入できません。これでは、進入に手間取ってしまうばかりか階の途中で火災が発生した場合、階段が利用できなくなることもあります。そこで各階に開口部を設け、そこから進入することが消火、救助活動をするうえで有効となります。通常の建築物は開口部がありますが、なかには建築物の使用目的・デザインなどの理由から開口部などが少ないものがあり、このような建築物にも、消防隊が進入できる開口部を一定の基準で設置しなければなりません。
設置義務のある建築物
非常用進入口は、建築物の31m以下の部分にある3階以上の階に原則として非常用進入口の設置を義務づけており、建築物の用途や設置する階が居室であるか否かは問わないことになっています。ただし、例外もあります。
非常用進入口の設置不要・免除
例外として非常用進入口が不要になるのは、以下のような場合です
- 不燃性の材料の保管のみに用いられる階または「特別な理由により屋外からの進入を防止する必要がある階」で、直上階または直下階から進入できる場合には設置しなくてよい。
「屋外からの進入を防止する必要がある特別な理由」としては、変電所、冷蔵倉庫、拘置所などの建築物や用途があげられます。設置義務を31m以下の部分としているのは、消防隊のはしご車がそれ以上の高さに届かないことを考慮したものです。なお、31mをこえる建築物には、原則として非常用エレベーターを設置し、それを使用することになっています。
非常用進入口の設置が免除されるのは、次の場合です。
- 非常用エレベーターを設置している場合
- 道または道に通ずる幅員4m以上の通路に面する各階の外壁面の窓などの開口部(直径1m以上の円が内接するものまたは幅が75m以上および高さが1.2m以上のもの)を壁面の長さ10m以内ごとに設けている場合(いわゆる代替進入口といいます。)
- 吹抜きとなっている部分などの一定の規模以上の空間で大臣が定めるものを確保し、当該空間から容易に各階に進入することができるものとして、大臣が定めた構造方法(平28国交告786)を用いた場合または認定をうけたものを設けている場合
非常用進入口を設置しなくてもよい建築物や用途があるんですね。
非常用進入口および代替進入口の構造
代替進入口は、非常用進入口の代わりとなる開口部のことをいいます。所定の代替進入口を設置することで、非常用進入口の設置は免除されます。
非常進入口と代替進入口はどこが違うの?
似ているけれど、進入口の大きさ・設置する間隔などそれぞれで異なります。
※非常用進入口および代替入口はどちらも、火災等の災害時に消火・援助を円滑に行うための進入口として設置されるものです。設置すべき外壁面については両者とも同じですが、進入口の大きさや、設置間隔等の規定は異なっています。なお、同一階の同一外壁面に、非常用進入口と代替進入口を混用することは、原則やめましょう。
非常用進入口および代替進入口の設置箇所は以下のどちらか
- 道
- 道に通ずる幅員4m以上の通路、その他の空地
通路でもよい理由は4m以上あれば、はしご車が入れるからなんでしょうね。進入口のそれぞれの構造は以下によります。
非常用進入口および代替進入口の設置個所については以下のどちらか
- 道(都市計画区域では道路のこと)に面する外壁面に設ける
- 道に通じる幅員4m以上の通路その他の空地(通常敷地内空地といいます。)に設ける
非常用進入口の構造
- 進入口の大きさ: 幅75cm、高さ120cm、床から下端まで80cm以下
- 進入口の間隔 40m以下とすること
- 外部から解放または破壊して室内に進入できるようにすること
- 奥行き1m以上、長さ4m以上のバルコニーを設けること。(バルコニーを設置させる理由は、進入口の数の関係で、消防士のたまりを確保するため)
- 進入口またはその近くに、外部から見やすい方法で赤色灯を設置すること
- その他大臣の定める基準に適合すること
代替進入口の構造
- 進入口の大きさ① :幅75cm、高さ120cm、床から下端まで120cm以下
- 進入口の大きさ② :直径1mの円が内接できる形のもの、床から下端まで120cm以下
- 進入口の間隔 10m以内ごとに1以上設ける
- その他の条件 外部からの進入を妨げる構造でないもの※1
※1 代替進入口の進入を妨げる構造として取り扱うものの例
- 外部から解放できない扉
- 金属製の格子や手すり
- ルーバー
- 窓を覆う広告板等の障害物
ガラスの種類や厚みについて
特定行政庁毎ごとにガラスの種類や厚みについて基準を設置している特定行政庁があります。例えば、板ガラスの厚みが6mmを超えるものや、合わせガラスのはめ殺し窓については、非常用進入口(代替進入口)として取り扱わないなど明確に定められていたりしています。各特定行政庁の建築基準法取扱のチェックや、指定確認検査機関及び消防局に事前相談しておきましょう。
非常用進入口および代替進入口の設置個所や構造については、「建築物の防火避難規定の解説 2016 第2版」の書籍に詳しく書かれています。まだ手に入れていないのであれば、ぜひ購入する事をおススメします。また、各特定行政庁において微妙に運用が異なる場合がありますので、各特定行政庁の取扱について調べておきましょう。
非常用進入口の機能を確保するための基準
非常用進入口を設ける時に何か規制はありますか?
非常用進入口であることが容易に認識できるための基準と構造が定められています。
非常用進入口の表示方法の基準は、次のように決められています。
- 非常用進入口またはその近くに、一定の基準を満たす赤色橙を設置する。
- 赤色反射塗料による一辺が20㎝の正三角形のものを非常用進入口に表示する。
赤色橙の構造基準は、次のように決められています。
- 常時点燈(フリッカー状態を含む)の構造で容易に電源が遮断されうるような開閉器の設置不可。
- 充電装置を有する蓄電地(充電を行わないで30分間継続して点燈させることができるものに限る)その他これに類するものを用い、かつ、常時の電源が断たれた場合に自動的に切り替えられて接続される予備電源を設ける。
- 赤色橙の明るさおよび取り付け位置は、非常用進入口の前面道路などの中心から、夜間に明らかに点燈していることが識別できるものとすること。
- 赤色橙の大きさは、直径10㎝以上の半球が内接できるものとする。
なお、一般的に代用進入口(建築基準法施行令126条の6第2号のもの)の場合は、表示をしなければいけないという規定はありませんが、建築物の安全性確保という観点から考えて、赤色の正三角形の表示をするほうがより好ましいと考えられます。どうしても付けたくない場合は、消防局と指定確認検査機関で事前協議しておきましょう。
共同住宅の非常用進入口設置の運用
共同住宅に非常用進入口を設置する場合は、特別な方法がありますか?
共同住宅だけの特例がありますよ。
共同住宅に設ける代用進入口については、昭46住建発85号によって国から解釈が示されていて、現在も多くの行政庁で同様に運用されています。
共同住宅における特例的な代替進入口について
共同住宅においては、その形状から、各住戸に設けられたバルコニーや開放性の高い共用廊下、または、屋外階段などから進入して消防救助活動ができるため、階段室型住棟や片廊下型住棟、中廊下型住棟及びツイン型住棟に該当する場合は、特例的に代替進入口として取り扱うことができます。
各住棟の形式ごとの特例については「建築物の防火避難規定の解説 2016 第2版」に記載がありますので、参照しておくのをおススメします。
まとめ
- 非常用進入口は、建築物の31m以下の部分にある3階以上の階に設置が必要。ただし、例外あり。
- 非常用エレベーターを設置している場合、代替進入口が設置できる場合、特別な理由がある場合は非常用進入口を免除できる。
- 非常用進入口には、大きさや設置間隔、バルコニーの設置、赤色灯の設置、赤色の▽標識を表示する。
- 代替進入口の大きさは、幅75cm、高さ120cm、床から下端まで120cm以下、又は直径1mの円が内接できる形のもので床から下端まで120cm以下のどちらかとし、進入口の間隔を10m以内ごとに1以上設ける
- 進入口のガラスの種類や厚みについて基準を設置している特定行政庁あり。各特定行政庁の建築基準法取扱のチェックや、指定確認検査機関及び消防局に事前相談が必要。
- 共同住宅にだけ特例的な取扱がある。建築物の防火避難規定の解説 2016 第2版」で要チェック。