- 外壁に開口部がない居室の壁は不燃構造などとし、天井裏まで立ち上げる必要があるのか?
- 昔はあまり目立って問題にならなかったのに、何か変わったのか?緩和規定はないのか?
- 天井の防火性能を高めることによって天井裏まで達しなくてもよいのでは?
- 天井裏まで立ち上げた場合、配管などの区画貫通処理は必要か?
このような疑問をお持ちのかたが、多くいらっしゃるのではないでしょうか?
たくみ です。
設計事務所、指定確認検査機関に長年勤めた経験をもとに難解な建築基準法について解説していきます。
結論からいうと、無窓居室の壁は不燃材料などで造り、天井で止めず天井裏まで立ち上げる必要があります。令和2年告示249号による一定の条件に合えば法35条の3を免除する規定が施行された結果、今まであいまいであった内容がより明確化されました。また、天井裏の壁を貫通する配管などの区画貫通処理について、一般的には不要ですが、特定行政庁や指定確認検査機関に事前確認が必要です。
「無窓」の定義とは?
無窓とは、まったく窓がない場合のことだけをいうのではなく、窓があっても一定の大きさ以上の窓がない場合も無窓といいます。
「無窓」と言っても色々な無窓の定義がありますが、法35条の3での「無窓」は次の2つです。
- 採光上の無窓
- 採光上有効な開口部面積が、その居室の床面積の20分の1未満の場合
- 避難上の無窓
- 建築物の外へ避難できる開口部の大きさが、直径1メートル以上の円が内接できないもの、または幅が75㎝以上で高さが120㎝以上でない場合
上記1、2どちらも該当する居室が法第35条の3の規定の対象となります。
逆をいえば、どちらかが該当しなければ法第35条の3の規定は適用されません。なお、映画館や集会場などの用途の建築物は他に厳しい基準があるため、この規定は除かれています。
✔ 具体的な法令は以下によります。(下記をクリックして下さい)
第35条の3 (無窓の居室等の主要構造部)
政令で定める窓その他の開口部を有しない居室は、その居室を区画する主要構造部を耐火構造とし、又は不燃材料で造らなければならない。ただし、別表第一(い)欄(一)項に掲げる用途に供するものについては、この限りでない。
第111条 (窓その他の開口部を有しない居室等)
法第35条の3(法第87条第3項において準用する場合を含む。)の規定により政令で定める窓その他の開口部を有しない居室は、次の各号のいずれかに該当する窓その他の開口部を有しない居室(避難階又は避難階の直上階若しくは直下階の居室その他の居室であつて、当該居室の床面積、当該居室の各部分から屋外への出の一に至る歩行距離並びに警報設備の設置の状況及び構造に関し避難 上支障がないものとして国土交通大臣が定める基準に適合するものを 除く。)とする。
一 面積(第20条の規定により計算した採光に有効な部分の面積に限る。)の合計が、当該居室の床面積の1/20以上のもの
二 直接外気に接する避難上有効な構造のもので、かつ、その大きさが直径1m以上の円が内接することができるもの又はその幅及び高さが、それぞれ、75cm以上及び1.2m以上のもの
2 ふすま、障子その他随時開放することができるもので仕切られた二室は、前項の規定の適用については、一室とみなす。
具体的な規定は、法令集で確認しましょう。
無窓の居室の主要構造部には特別な制限があるのか?
1)採光上の無窓、かつ 2)避難上の無窓の居室は、主要構造部を耐火構造、または、不燃材料で造らなければなりません。
設計実務経験者でも、この法35条の3の規定は今まであまり気にされた事が、少なかったのではないかと思います。役所もうるさく言っている所も少なかったかもしれません。最近になって目立ち始めた理由として、以下のパブリックコメントや令和2年告示249号が施行されたためだと推測できます。
国交省の考え方(パブリックコメントより 令和1年12月11日)
質問.無窓居室を構成する天井は主要構造部ではないため、居室を区画する…を満たすためには、間仕切壁は、防火区画のように天井裏もしくは、小屋裏まで達しなければならないか。
回答.貴見のとおり。
質問.法第35条の3の規定では、「居室を区画する主要構造部」となっているため、主要構造部である壁(間仕切壁)については、主要構造部である床等まで立ち上げる必要があると思う。その一方で、共同住宅等の界壁及び防火上主要な間仕切り壁については、強化天井を設けることによって小屋裏(天井裏)まで達する必要がないと改正されたが、法第35条の3の規定においても、規定上の性能が確保できる天井材の仕様の記述を望む。
回答.法第35条の3においては、窓その他の開口部を有しない居室を区画する主要構造部を耐火構造とする又は不燃材料で造ることを求めており、これは当該室の在室者が避難をするまでの間に当該室が火災により倒壊することを防止するための規制であることから、防火性能が高く火災時に倒壊しない耐火構造等の壁や床によって区画することを求めており、天井の防火性能を高めることによって当該規定へ適合させることはできません。
出典:国土交通省
つまり、どういう事?
法35条の3無窓居室の壁は、不燃材料などで造り、強化天井であっても、原則 天井裏まで立ち上げる必要があります。
法35条の3を免除する方法(令和2年告示249号)
法35条の3は条件が合えば免除できます。ただし、この方法は、法35条の3の免除だけであって、法28条や法35条による採光無窓とは関係ありません。
✔ 具体的な緩和の告示は以下によります。(下記をクリックして下さい)
告示第249号 主要構造部を耐火構造等とすることを要しない避難上支障がない居室の基準を定める件
建築基準法施行令(以下「令」という。)第111条第1項に規定する避難上支障がない居室の基準は、次に掲げるものとする。
一 次のイからハまでのいずれかに該当すること。
イ 床面積が30㎡以内の居室(寝室、宿直室その他の人の就寝の用に供するものを除く。以下同じ。)であること。
ロ 避難階の居室で、当該居室の各部分から当該階における屋外への出口の一に至る歩行距離が30m以下のものであること。
ハ 避難階の直上階又は直下階の居室で、当該居室の各部分から避難階における屋外への出口又は令第123条第2項に規定する屋外に設ける避難階段に通ずる出入口の一に至る歩行距離が20m以下のものであること。
二 令110条の5に規定する基準に従って警報装置(自動火災報知設備に限る。)を設けた建築物の居室であること。
以下のA~Ⅽのいずれかに掲げる基準に適合する無窓居室は、当該無窓居室を区画する主要構造部を耐火構造等とする必要が無くなります。
A 居室を存する階の位置によらない基準
(1)無窓居室床面積の制限
→居室の床面積の制限(30㎡以下)=在館者数の制限+早期居室避難
(2)無窓居室内外に対する警報設備の設置
→警報設備の設置=火災情報の伝達
B 避難階に存する居室の場合の基準
(1)無窓居室から屋外への出口の一に至る歩行距離の制限
から屋外への出口の一に至る歩行距離の制限
→無窓居室から屋外への出口までの歩行距離(30m以下)
(2)無窓居室内外に対する警報設備の設置
→警報設備の設置=火災情報の伝達
Ⅽ 避難階の直下階又は直上階に存する居室の場合の基準
(1)無窓居室から屋外への出口又は屋外に設ける避難階段に通ずる出口の一に至る歩行距離の制限
→無窓居室から屋外への出口までの歩行距離(20m以下)
(2)無窓居室内外に対する警報設備の設置
→警報設備の設置=火災情報の伝達
各地域の役所によって取扱いが異なる場合がある?
和歌山県内の場合
法35条の3の規定において、その居室を区画する主要構造部とは、その居室を区画する間仕切壁、当該階の床、直上階の床及び屋根をいう。なお、主要構造部を耐火構造とした場合、その仕上げ材料は問わない。ただし、例示仕様(告示)に示された構造方法の場合に限る。また、不燃材料で造る場合は、仕上材を含めた構成材を不燃材料とする必要がある。
令第111条第1項第二号の直接外気に接する避難上有効な構造の窓その他の開口部とは、直接外気に接して避難が可能な避難階の出入り口、屋外階段に通ずる屋外廊下への出入り口、令第121条に規定する避難上有効なバルコニーへの出入り口(それぞれ掃き出し窓を含む)等で、当該出入り口から道路等までの全ての経路が幅員75メートル上確保されているもの等が考えられる。
神戸市の場合
主要構造部の仕上げ材料は、次の通りとする。
①主要構造部が耐火構造又は不燃材料で造られていれば、仕上げ材料の制限はない。
②不燃材料で造らなければならないのは仕上げ材料の下地までである。
【解説】
①無窓の居室をその他の部分と区画する間仕切り壁は主要構造部に該当する。
②百貨店、ショッピングモール内の店舗であっても、出入口が異なる場合や、営業日又は営業時間が異なるなど管理運営が一体でない場合は一室とみなせず区画が必要である。
天井裏の壁を貫通する設備配管は区画貫通処理が必要か?
結論として、一般的には法令上の区画貫通処理の要求はないと考えますが、壁が不燃構造ではなく耐火構造の場合は、区画貫通処理が必要な場合があります。また、「建築設備設計・施工上の運用指針2019年版」という書籍のQ&Aには、区画貫通処理が必要という記載もあります。よって、この問題は各特定行庁や指定確認検査機関の考え方にもよるグレーな部分のため、上段の取扱いも含め事前に問い合わせる必要があります。
国交省の考え方(パブリックコメントより 令和5年3月 2 0 日)
令和5年3月 2 0 日パブリックコメントに対する国土交通省の考え方が示されましたので、追加で記載します。
質問.
本告示における不燃区画等には第 112 条第 20 項及び第 21 項の規定に基づく貫通部処理
は要求されないと解してよいか。(令第 111 条関係も同様。)回答.貴見のとおり。
質問.
廊下等を不燃材料の壁や戸で区画する場合について、天井を不燃化する必要や、壁を天
井裏まで立ち上げる必要があるか明らかにすべき。(令第 111 条関係も同様。)回答.原則として、壁は天井裏まで立ち上げることが必要となりますが、天井を不燃材料で造り又は覆われたものとすることを前提に、壁は天井面まで立ち上げたものとして支障ありません。
出典:国土交通省
令和5年4月改正について
令和5年4月1日から施行令111条の運用が改善されました。その内容として、避難階以外の無窓居室で床面積が30㎡を超える場合でも非常用照明などの設置やスプリンクラー設備の設置等の条件に合えば、無窓居室の壁を不燃化する必要がなくなりました。条件は以下のようになります。
令111条の運用が改善されました。その内容として、避難階以外の無窓居室で床面積が30㎡を超える場合でも非常用照明などの設置やスプリンクラー設備の設置等の条件に合えば、無窓居室の壁を不燃化する必要がなくなりました。条件は以下のようになります。
- 自力避難ができる用途に限定する。(病院や老人ホームなどの自力避難弱者が利用する居室以外)
- 自動火災警報設備を各室に設置する。
- 居室と避難経路に非常用照明を設置する。
- 直通階段までの通路全体を火災の発生の恐れの少ない室とする。
- 当該通路とその隣接室にスプリンクラー設備を設置するか、又は 通路を不燃壁・不燃扉(遮煙)で区画する。
- 直通階段を準耐火構造(建築物が耐火構造ならば耐火構造 以下同じ)の壁と防火設備(遮煙)の扉で区画する。
- 避難階の通路を火災の発生の恐れの少ない室とするか、又は 避難階の通路にスプリンクラー設備を設置する。
- 避難階の通路を準耐火構造の壁と防火設備(遮煙)で防火区画する。
まとめ
- 令111条の一定の大きさ以上の窓がない居室が、第35条の3の規定の対象となる。
- 法35条の3無窓居室の壁は、不燃材料などで造り、原則 天井裏まで立ち上げる必要がある。
- 令和2年告示249号の条件に合えば、第35条の3の不燃区画壁の免除が可能となった。
- 天井裏の不燃区画壁を貫通する設備配管は、一般的に区画貫通処理は不要と考えるが、事前に指定確認検査機関に確認する必要がある。
コメント
コメント一覧 (1件)
よくわかりました。
ありがとうございます♪